ハルキストじゃないけど~テキスト「英語で読む村上春樹」~

NHKラジオ語学番組に,この4月から「英語で読む村上春樹」が登場しました。

 

断っておきますが、私はハルキストではありません。

むしろ?村上龍さんのファンです。

 

たまたま通りかかった本屋でこの番組のテキストが目に留まり,つい出来心で買ってしまいました。

 

テキストは日本語の文学論のようにも読める,変なテキストです。


あまりよく内容を吟味せずに買ったので,放送当日になってようやく「あら,他の語学番組とちょっとばかり趣向が違うのね」。

 

NHKの糸井羊司アナウンサーが日本語で朗読するのです。

 

現役バリバリのアナウンサーがきっちり読み上げるハルキは,秀逸です。

 

ざっくりいえば,「とある町で飼われていた象がある日突然いなくなった」という短編。

半年かけてじっくり読み込んでいくそうです。


糸井アナのクールな声質が,その原作「象の消滅」にピッタリでした。

 

話のトーン,つまり不可思議で,英語圏なのにどこか無国籍な匂いすら漂う空気感を少しクドイとも思える一人称でサラサラと読み上げるリズムが本当にちょうどいいと、初回で思ってしまいました。

 

同局では,元アナウンサー松平定知氏が藤沢周平作品を長年朗読していましたが,そのとき以来「物語と声がピッタリだなぁ」と。

 

藤沢周平作品のような風情は,松平さんのような年輪を重ねた声しか表現できない部分がある。

 

でも,きっと松平さんの声はハルキの象が消えた物語には似合わない。そういうことなのです。

 

はて。英語学習のはずなんですが? 日本語を楽しんでる? あれ?

 

ところで、番組のテキストは2つのパートに分かれています。

 

放送パート「英語で読む村上春樹」と、“ハルキの作品世界をあらたな目で読み直そう”という「日本語で読む村上春樹」。

 

5月号のパート2には、講師であるエライ沼野教授と他3名による座談会の後編が収録されています。


「翻訳によって変わることを肯定する態度」という節では、有能な翻訳家であり世界的な作家でもある村上春樹の特徴について,語学のプロ中のプロたちが、翻訳の妙、素人には知りえない翻訳作業の悩ましい気持ちなどを吐露しています。

 

たとえば、「日本語圏は翻訳の許容範囲が広い。一方、英語圏は非常に許容範囲が狭い」「つまり、英語として気持ちよくない文章を商品として流通させることは許されない」。だから、「『ねじまき鳥クロニクル』は日本語版と英語版では相当違っていて、英語版はかなり短くなっている」などなど。

 

さらに、翻訳の世界を通して村上春樹独特な創作姿勢と翻訳家としての特徴についても語り合います。

 

ハルキストには当然の話かもしれませんが、私のような不勉強な(アンチハルキスト?)向きにも面白い話を、たとえば小説家の古川日出男氏はちらっと披露しています。

 

要約すると、「翻訳を通じて別の作品になることを村上本人は意外に歓迎しているのではないか。年齢を重ねるという現実やそうして生きている間に不可避に変容することを一種の成長、一種の可能性とみて、その成長の中で変えられるテキストはどんどん変えていこうとする基本姿勢だと考えると、定本というのはありえないのではないか」と。

 

気になる方はどうぞ手にとってご覧ください。

 


翻訳といえば、若くして亡くなられた米原万里さんのエッセイが私は好きでした。

週刊誌の連載も抱腹絶倒でした。

彼女がこんな座談会に参加したら、どれほど話が飛躍、いや跳躍しただろうかと思います。

 

その米原さん亡き後、電子書籍がボチボチ出回る時代になりました。

 

にも関わらず、なんだか洋書のペーパーバックのような作りのこのテキストは、ほかの番組よりも読み応えのある厚さです。

 

ちょっと懐かしい感じがする。といえば、カッコよすぎか。

ハルキの世界観を楽しむためのパート2にかなり凝ったんでしょうね。

パート1にも,ハルキのエッセンスを随所に盛り込む工夫が見えます。

 

あ。いまごろ気づいた。

そう、ハルキの世界を日英の両国語で楽しむ番組なんですね。

 

巻頭の「本誌の使い方」に、こうありました。

「2つのパートからなる本誌を手がかりに、村上文学のあらたな読みの世界を切り開いてください」

 

 

この番組の放送日時は変則的です。

日曜午後10501120、再放送;土曜午後010040 

 

最初から録音ありきの放送時間なのかしら。

ま、わたしごときが心配するようなことではありませんね。

 

 

そんなわけで、英語云々よりも日本語と英語の間でこんなことをつらつら思っている始末。

センセイの説明が始まるとウツラウツラしてるし。

はたして数ヶ月後にでも英語上達がどうかと問われると。。。

今回も期待できそうにないです。。。ね。

 

 

<オマケ>

昨日、月替り目前にテキスト6月号を買ってなかったことに気づいて駅近くの本屋へ駆け込みましたが、影も形もありませんでした。

やられた! そんなに人気なのか。やっぱりハルキ人気って凄いのね。。。

と、思っていたら、梅雨時の小雨の中わざわざ立ち寄った大型ショッピングセンターの本屋には、平積みで20冊以上はありました。

なんだ。客層の違いか。

いや、失礼しました。テヘッ