やさしい光に包まれて~いわさきちひろの世界~

北九州市立美術館の「いわさきちひろ展」に行って来ました。


昨日から始まった展示会は、いつもとは違う雰囲気に包まれていました。


どこかで一度は目にしたことのある、輪郭線の淡い童画。


日曜日の美術館は子連れの家族が多いものですが、気のせいかベビーカーを囲む笑顔が和やかでした。


ちひろの絵を前にすれば、「ベビーカー」というより「乳母車」のほうが似合いますが。


陽の光を存分に浴びたような水彩画の美しさは、月夜も雪景色も暖かく感じます。


でも、その暖かさの裏に激しい葛藤と向上心を秘めていたことは、各コーナーの説明書きで分かります。


10ヶ月と1歳の赤ちゃんを見なくても描き分けられるほどの描写力を持つに至っていたこと等。

 

透明水彩を少しかじった人ならば分かると思いますが、油彩とはまったく異なるテクニックが求められます。

 

それを輪郭線なしに、いとも簡単そうにさらっと描いてみせた筆力に驚嘆します。


そうして童画を挿絵ではなく芸術の域に高めたいと奮闘した母は、しかし円熟期を迎えた頃に旅立ってしまいました。

 

 

それでも、私がちひろは幸せな人だなと思います。


子どもの幸せを奪う戦争への嫌悪、平和への祈りを込めた絵の数々が出版という形で残されたこと。


美術館に行けば、彼女の努力の一欠片でも観れること。


その思いを継ぐ人がいるかぎり、メッセージは伝え続けられること。


優しいタッチとともに画家の矜持に生きた人なのです。


悪夢のような不条理が国内外で続く昨今、足を止めてほしい展覧会です。


ところで、ちひろには二つの美術館があります。


そのうちのひとつ、安曇野で過ごした住居跡の広大な庭に囲まれた美術館は、心も身体も清めてくれるところです。


もし、長野へ足を運ばれることがあるならば是非どうぞ。


もちろん、北九州での展覧会をお先に。

 

帰り際、ちひろの画について著名人が語るボードが長い廊下にあります。


女優の真野響子さんが語る帽子の話は、彼女らしいウィットに富んだエピソードでしたよ。